麻璃の海 ライフ・ストーン


              いじめについて



いじめというのは、いきなり降りかかり、襲いかかってくる災難で、本人の努力でどうにもなるものではない、一方的に理不尽な、人生を揺り動かす一大事象と言えます。 

「本人にも問題がある」というようなことも言われたりしますが、そのほとんどは、本人に責任を課すべきものではありません。

容姿が著しく劣っていたり、片親がいなかったり、理由はいろいろあると思いますが、これらは本人の落ち度によるものでは、断じてありません。


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私は、いわゆる帰国子女でした。

いまならどうということもないのかもしれませんが、あの頃は、大きなやっかみの対象となることだったのです。

 

私から言わせれば、別段セレブな生活をしていたわけでもなく質素でしたし、親の仕事の関係でしたので、無理やり連れていかれた印象でした。

いきなり友達もいなくなりましたので、毎日がつまらなかったですし、いつも「早く日本に帰りたい」と念じていました。

いつもネガティブな心持ちしかなかったからでしょうか、その国の言葉は、まったく覚えませんでした。

 

永遠とも思えるような長い長い1年半が過ぎ、待ちに待った日本へ帰るときが来ました。

「これですべてがよくなる」

そう思って意気揚々としておりましたら、遭遇したのは、ひどいいじめ。

 

当時の私には、なぜそういったことが起こるのか、まったく理解できませんでした。
ただただ理不尽な渦に呑み込まれたかのごとき、運命。

また「不登校」という言葉もありませんでしたから、毎日いじめられるために学校に行きました(行くものだと思っていたのです)。

肉体的な暴力と、言葉の暴力と、蔑まれる眼差し。

 

いきおい私は、それらからできるだけダメージを少なくするためでしょう、本能的に自分を貝にしました。
自分の味方をする者が誰ひとりいない、圧倒的ないじめの壁の前で、それだけが私にできる、ただひとつの防衛手段だったと言えましょう。

でも貝にすることにエネルギーの多くを費やすため、ほかに集中力がうまく廻りません。
ですから宿題も忘れたりしますし、成績も芳しくありませんでした。
いじめをいかにしてやり過ごすか、これがまず第一だったわけですから、学校生活にて自分の力を存分に発揮することなど、到底できなかったのです。

 

また・・、いつ終わるとも知れない、先の見えない暗闇が私を襲ったのでした。

まだ小さい子供ではありましたが、小さいなりに自分を納得させなければなりません。

「きっと自分は、不幸な星の下に生まれてきたのだ」

いつしか、そう思うようになりました。

といいますか、そのようにしてしか、自分を納得させられるものではなかったのです。

 

ちょうどその頃でした。

10歳だった私に妹ができたのです。

そのとき、私は神さまと取引をしました。

 

「自分はもう不幸な星の下に生まれたのだから仕方ない、しかし、妹だけは絶対幸せにしてくれ、これだけは譲れないぞ!」と。

こうすることで、いたたまれない自分の存在にも意味があると思えたのでしょう。

 

生まれた妹には、それはそれは可愛がりました。

おしめもミルクも、何でもやり、泣いたときはすぐさま駆けつけました。

いまでも親戚には、「龍ちゃんは〇〇〇ちゃん(妹の名前)のこと、ホントに可愛がっててネ〜」と言われたりします。

 

でもまァ、いちばん可愛がったのはものごころつくあたりまででしたので、妹本人は「あたしゃぁそんなに可愛がられた覚えはない」と言うかも・・


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いじめに苦しむ人は、みずからを死に追い込むことが少なくありません。

現在ではいろいろと手を尽くして、自殺を思いとどめようとしています。

 

死ぬ人は、なぜ死ぬのでしょう?

それは、生きることに希望が持てないから死ぬのです。
生きていることに、なにも意味を見いだせないから、みずから命を絶つのです。

 

私も、未だに思うのです。

なぜ自分は、死のうとはしなかったのでしょう。

 

それはたぶん、「夢」があったからです。

いまは、ずっと出口の見えない暗いトンネルにいて、それが出られるかどうかもわからないけれども、いつか夢を実現したい!という妄想(?)だけが、自分をこの世にとどめさせておりました。

 

「いじめに負けない」とか、「意思を強く持つ」とかいうことはよく言われると思いますが、これはいじめの度合いと同じくらい気張らなくてはなりませんので、これはシンドイ。

そのしんどさが臨界点を超えてしまうときが、怖いのです。

 

え?私の夢ですか?

いやお恥ずかしい、ファーブルのような昆虫博士(本当は彼は教師だったのですが)になって、虫とだけたわむれるだけの生活をしたい・・というようなモノでした。
いじめる人間もおらず、苦しい思いをすることなく、そんな生活ができたらどんなにいいだろう・・

それだけが私をこの世につなぐ、唯ひとつの仄かな光の筋だったのですヨ。






   
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