麻璃の海 ライフ・ストーン


            フランケンシュタイン



フランス革命が起こったとき、文化人をふくめた多くの民衆が感動し、理想を求めて高揚しました。そして、ヨーロッパ各地にまでさまざまな形で気運が拡がりました。


革命によって触発され、ウィリアム・ゴドウィンは政治の理想形を頭に描き、「政治的正義」という書物を一気に書き上げました。

追い風もあったのでしょう、それは大受けし、よく売れて多くのシンパもできました。

 

そして著書の成功で気をよくし、メアリ・ウルストンクラフトという女権運動家と結婚し、さっそうと政治思想家としてスタートをします。

しかしもうすでにこのときから、満帆の糸はほつれかけていたのです。

 

ほどもなく群集は暴徒と化し、マリー・アントワネットをはじめ、多くの人間を断頭台に送りました。このことから、フランス革命はその血生臭さによって次第に恥辱とみなされるようになり、ゴドウィンもそれにともなって民衆から忘れられ、次第に落ちぶれてゆきます。

 

ときに、ゴドウィンの著書の柱として、

 

*政治は必要ない、なぜなら民衆の理性が成熟しているから。

これがまず、一大論旨です。

歴史的にいいますと、アナーキズムの元祖ということになります。

 

たとえば火事が起きて、自分の親か神父か、どちらか一方だけしか助けられないという場合、理性にしたがって親を見殺しにし、より多くの人に貢献する立場の神父を助けるだろう、というのです。

あり得ない話ですが、民衆はこれに熱狂したのです。

 

もうひとつ、

*結婚制度は最大の悪法なりというもので、自由恋愛を主張するものがあります。

 

つまりそもそも彼の著作は非常にエキセントリックで理想主義的なものだったのですが、ハナから書いたこととやっていることの整合性がありません、

著書の成功を機にメアリと結婚したのですから。


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結婚後、メアリとの間には女の子が生まれましたが、それがもとでメアリは亡くなってしまいます。

ゴドウィンは、子供を連れていろいろと住処を変えながら名声を取り戻そうと奮起しますが、時代は彼を置いていってしまったかの如く、功を奏することはありませんでした。

 

そしてその子供が長じて詩人のシェリーと結婚したいと言うと、ゴドウィンは自分がどうだったかなんてことはさておき、断固反対し、勘当してしまいます。

ときに、シェリーは貴族でもあり、お金を持っていました。

それでなんと自分が勘当したカップルに対し、ゴドゥインはお金の無心だけはしていたのです。

 

やけにシェリーも気前がいいなァとも思いますが、シェリーはかつての政治思想家としてのゴドウィンに感銘を受けたクチなのでした。

それで援助は惜しまなかったのですね。

 

ウィリアム・ゴドウィンは、最後は管理人の職でなんとか食いつないでいた状態でした。

彼は皮相にも結局、自分の著書に書いた内容に離反するような生きかたしかできなかったのです。

つまり彼の生涯は、みずから生み落とした書物の不可能性を実証する以外のものではなかったとも言えましょう。

 

もしもフランス革命がなかったら、もしも政治思想家として大スターにならなかったら、ゴドウィンはどうだったでしょうか。

もっと家庭を大切にして、笑顔のあふれる人生を歩んだのかもしれませんが、こればっかりはわかりません。

彼は、なにかしらの運命に翻弄されたとしか言えません。


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何故にこのように長々とゴドウィンのことを書いてきたかといいますと、それはこういうことなのです。

フランケンシュタインは怪物に命を与えるという、摂理を超えた業を成し遂げます(フランケンシュタインは怪物を創った人物の名前で、怪物そのものの名前ではありません)。

怪物は実はとても繊細で優しい心を持っていたのですが、そのみにくい姿ゆえに人々に受け入れられず、苦悩します。

このあたり、非常に細やかな心理描写があり、「フランケンシュタイン」が名作たる所以と言って過言ではないでしょう。

 

そしてフランケンシュタインもやがては怪物を作ったことを後悔し、最後には自分の命とひきかえに殺そうと決心します。

 

つまりフランケンシュタインもゴドウィンと同様、自分の生んだものの不可能性に引き裂かれてしまうのです。

このあたり、奇妙な共通点を感じはしないでしょうか。


「フランケンシュタイン」の著者メアリ・シェリーはゴドウィンとメアリ・ウルストンクラフトとの間にできた娘であり、「フランケンシュタイン」は、ゴドウィンが彷徨していたとき、パーシー・ビッシュ・シェリーと出会い、創作を勧められて18歳のときに書いた物語なのでした。






 
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